このページではアクチュエーターの種類やモーターとの違いなどを紹介します。
アクチュエーターの定義は「動きを生み出すもの」です。
アクチュエーターは主に動作原理で分類されます。これは動作原理で分類すると、「対応できる出力」や「必要な周辺設備」などが大まかに決まるからです。
アクチュエーターは工業製品です。このため、選定の際には経済性が重要になります。 経済性を判定する上では、「出力」や「周辺設備」が重要なパラメータとなります。これらのパラメータの多くが動作原理で決まるため、アクチュエーターの動作原理での分類が広く行われます。
以下ではアクチュエーターについてより詳しく紹介します。
アクチュエーターとは何か?
アクチュエーターとは、辞書的には「動きを生み出すもの」です。
このため辞書的には動くものは何であっても、アクチュエーターということになります。
しかしながら、実際のところは、アクチュエーターという言葉からは、空気圧シリンダーや、油圧シリンダー、油圧モーター、電気サーボモーターが主にイメージされます。
つまり辞書的なアクチュエーターの意味と、実際にイメージされるアクチュエーターの範囲には違いがあります。
これはFA(工場自動化)分野は、大量生産ではなく、生産設備のために100 kW以下程度の市販のアクチュエーターを選定する技術者が多いため、アクチュエーターという言葉がコミュニケーションの都合上便利だからだと考えられます。
アクチュエーターとモーターの違い
アクチュエーターとモーターは、よく似た言葉です。ここでは、エンジンや原動機も含めて、それらの違いを紹介します。
まず辞書的にはアクチュエーターとモーターは同じ意味です。どちらも動きを生み出すものだからです。また、エンジンや原動機も辞書的にはほとんど同じ意味です。エネルギーを変換して、動きを生み出すものだからです。
一方で、一般的な社会ではアクチュエーター、電気モーター、エンジンが表すものは異なります。以下に図を再掲します。
アクチュエーターは、狭義には空気圧モーター、油圧シリンダー、油圧モーター、電気サーボモーターに指すことが一般的です。
モーターは、電気モーターを表すことが一般的です。電気モーターには電気サーボモーターも含まれます。
エンジンは、内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン)ジェットエンジン(ガスタービンエンジン)、ロケットエンジンを表すことが一般的です。蒸気タービンは含まれません。
原動機は、エンジンやタービンを表すことが一般的です。ロケットエンジンは含まれません。
他にもμm級のMEMSアクチュエーターや、人体で働く生体タンパク質アクチュエーターなどがあります。
以下では上記の全てを超広義のアクチュエータとして扱います。具体的な種類と分類について紹介します。
社会におけるアクチュエーター
アクチュエーターの動きは、社会を発展させます。
「人を運んだり」、「モノを作ったり」と、世の中には社会に役に立つ動きが多くあります。アクチュエーターは、社会に役にたつ動きを実現する手段です。
物質的に豊かで便利な現代社会に、各種のアクチュエーターは欠かせない存在です。
まず社会に役に立つ、動きがあります。それに合わせてエンジン、電気モーター、油圧モーターなどのアクチュエータから、どの種類が用いられるかを決めることになります。
アクチュエーターを選定する際には、経済性があうかを確認するため、出力・周辺設備などの観点が重要です。
アクチュエーターが社会に実装されるまでの流れ
- 「社会に役に立つ動き(金になる動き)」を見出す。
- 経済性があうかを出力・周辺設備などの観点からアクチュエーターを選定をする。
アクチュエーターの具体的な種類と分類
アクチュエーターの具体的な種類と分類を、「出力(大きさ)」と「周辺設備(エネルギーの入力形態)」の観点から以下の図に示します。
どの種類のアクチュエーターを用いるかの決め手は、工業製品では経済性が重要です。つまり達成する手段を最低限のコストで実現するかの観点で決めることになります。
出力や周辺設備の観点は経済性に大きく影響します。そこで、上記の図では出力と周辺設備の観点からアクチュエーターをまとめています。
例えば車であれば、100kWオーダーの出力が必要です。また燃料などの形でエネルギーを運ぶ必要があります。このためコストとしては周辺設備の観点でガソリンやバッテリーなどの情報が重要です。このようにアクチュエーターの選定では、まず出力や周辺設備が重要になります。
アクチュエーターの選定の観点
アクチュエーターの選定は、出力や周辺設備などの観点から行います。
アクチュエーターの選定の観点
- 出力(大きさ) :種類ごとに対応可能な出力が異なる
- 周辺設備:種類によって費用が大きく異なる
- その他の基本性能:種類によって特徴が異なる
「出力」と「周辺設備」、「その他の基本性能」の観点の例を以下にそれぞれ1点ずつ紹介します。
出力(大きさ) の観点の例:自動車
生み出したい動きによって、出力が決まります。アクチュエーターは種類によって対応できる出力が異なるため、生み出したい動きが決まれば選択できるアクチュエーターの種類も絞られることになります。
例えば自動車であれば100kW程度の出力が必要です。このため出力の観点ではアクチュエーターとしては、エンジンや電気モーター、油圧モーターで対応できることになります。
一方で、空気圧アクチュエーターやMEMSアクチュエーターでは自動車用には出力が足りないことが分かります。
出力のみの観点で自動車にアクチュエーターの原理の採用可否
- 可:エンジン、電気モーター、油圧モーター
- 不可:空気圧アクチュエーター、MEMSアクチュエーター
アクチュエーターの種類ごとに対応できる出力は、材料の性能や経済性で決まります。材料の性能を限界まで引き出すためには、物理法則をはじめとした科学の知見を活用することが重要になります。このような知識は、具体的に「機械工学」として体系化されています。
周辺設備の観点の例:電動化
周辺設備は費用に大きく関わります。
アクチュエーターの周辺設備としては、例えば電気があります。そして周辺設備として「電気」を採用することを、「電動化」と呼びます。
周辺設備には、「電気」「燃料」「油圧」「空気圧」などがあります。このうちでも「電気」はエネルギーを伝達がしやすいことなどを特徴として以下のメリットがあります。 周辺設備として「電気」の採用することメリットが多いため、電動化が自動車、船舶、工場の分野で進展しています。
「電気」を周辺設備としたアクチュエーターの利点
- 配置の自由度が高い
- メンテナンス性が高い
- インバーターの進化により制御性が高い
一方、電動化の欠点として、数十万kW級のアクチュエータがないことや、バッテリーのエネルギー密度が化石燃料に比べて低いことなどが挙げられます。電動化の進展は、これらの欠点が解決された領域から自然に生まれいます。
「電気」を周辺設備としたアクチュエーターの欠点
- 数十万kW級のアクチュエータがないこと
- バッテリーのエネルギー密度が化石燃料に比べて低いこと
その他の基本性能の観点の例:変位、周波数
アクチュエーターを選定する上でのその他の観点として、アクチュエーターが対応できる変位や周波数(速度)があります。
ミリメートル以下のスケールのアクチュエーターとしてMEMS(メムス、マイクロ電気機械システム)があります。
例えば物体を検知するLiDARと呼ばれるセンサーでは、鏡を動かすアクチュエーターとしてMEMSが採用されています。
MEMSの中にも、静電容量式や圧電(ピエゾ)式といった異なった方式のアクチュエーターがあります。共に出力域や電気での駆動という点はおおよそ同一です。
一方、静電容量式MEMSは圧電式MEMSと比較して、大変位だが低周波数という特徴があります。変位や周波数は、出力や周辺設備では表現しきれない特徴です。このように出力や周辺設備以外にも基本性能を見る観点があります。
LiDAR用アクチュエーターでは、静電容量式MEMSと圧電(ピエゾ)式MEMSの共に採用されることがあります。
MEMSアクチュエーターの特徴の比較
- 静電容量式MEMSの特徴:大変位。低周波数。
- 圧電(ピエゾ)式MEMSの特徴:小変位。高周波数。
アクチュエーターは主に、回転型と直動型があります。
3次元空間の中で、共に1次元のみの基本的な動きを生み出します。回転型であれば、角度が変数です。直動型であれば軸方向の位置が変数です。
辞書的には、モーターは直動型も含みます。しかしながら、モーターが回転型アクチュエーターのことを指す場合もあります。これは身近にあるモーターが、電気モーターであり多くは回転型であることに由来すると考えられます。
回転型は角度が変数であるので、連続的に同じ動きを生み出す際に適しています。
アクチュエーターごとに回転型と直動型の例を以下の表に示します。
アクチュエーター | 回転型 | 直動型 |
電気 | 電気モーター (誘導モーター 同期モーター ステッピングモーター) | 電磁シリンダー |
油圧 | 油圧モーター | 油圧シリンダー |
空気圧 | 空気圧モーター | 空気圧シリンダー |
内燃機関 | - | ガソリンエンジン ディーゼルエンジン |
外燃機関 | タービン | スターリングエンジン |
MEMS | - | 静電容量式MEMS 圧電(ピエゾ)式MEMS |
タンパク質 | Fo F1 | ミオシン キネシン ダイニン |
エネルギー伝達媒体ごとのアクチュエーター
その他の基本性能を確認するために、各種アクチュエータや関連する装置を伝達経路ごとにまとめた表を以下にまとめています。
これらの表に記載の装置の観点などで、その他の基本性能は確認できます。
この表では過去半世紀での進化が著しい分野である、蓄電池とインバーターを黄色でハイライトしています。蓄電池、インバーターの進化も追い風もあり、世の中で電動化が進んでいます。
エネルギー 伝達媒体 | 鉄 (軸動など) | 電動 | 油圧 | 空気圧 | 蒸気 |
アクチュエーター ("動き"への変換装置) | - (変換不要) | 電気モータ | 油圧モータ 油圧シリンダ | 空気圧シリンダ | 蒸気タービン |
緊急遮断装置 | シャーピン | MCCB | 安全弁 | 安全弁 | 安全弁 |
媒体調整装置 | ギア、 クラッチ | インバーター | 制御弁 | 制御弁 | 制御弁 |
長時間のエネルギー 維持装置 | - | 電池 | - | - | - |
短時間のエネルギー 維持装置 | フライホイール | UPS | - | アキュムレータ | - |
各種のアクチュエーター紹介
超広義のアクチュエーターを出力が大きなものから大まかに以下では紹介します。
ロケットエンジン
ロケットエンジンは、ロケットに用いられます。燃焼したガスを噴射し、反作用で前に進む力を得ます。
タービン
ここではジェットエンジン(ガスタービン)について紹介します。
ジェットエンジンやガスタービンは、飛行機のエンジンで飛行機を飛ばしたり、火力発電所で発電機を回すために用いられます。
飛行機のエンジンも、燃焼したガスを噴射し、反作用で前に進む力を得ます。また民間航空機では一部の動力を、ファンを回す力としても利用することで高効率化を達成しています。
ジェットエンジンの原理や技術、歴史については以下の本がわかりやすいです。
内燃機関(ガソリン・ディーゼル)
内燃機関は多くの自動車で採用されています。ガソリンエンジンとディーゼルエンジンは、燃焼させる際の点火の方法が異なります。ガソリンエンジンは火花を作る着火させます。一方で、ディーゼルエンジンは燃料を圧縮させることで自然い発火させます。
電気モーター
電気モーターは、電磁気の力で動きます。扱いが簡単なため非常に多くの用途で用いられます。
油圧アクチュエーター・空気圧アクチュエーター
油圧アクチュエーターと空気圧アクチュエーターは、それぞれ油圧と空気圧で動きを生み出します。
圧力を高めるために、それぞれ油圧ポンプや空気圧縮機が必要となります。
油圧アクチュエーターは建設機械で多く用いられています。特にショベルカーでは、キャタピラの部分は油圧モーターで動き、バケットのついたアームの部分は油圧シリンダーで動きます。
MEMSアクチュエーター(静電容量式、圧電(ピエゾ)式)
MEMSアクチュエーターは、mm以下の寸法を実現できるアクチュエーターです。
半導体微細加工によって作成され、主にシリコンウエハーから作成されます。LiDARなどの、多くの精密機械のアクチュエーターとして採用されています。
タンパク質モーター
タンパク質モーターは人間の体の中で動きを生み出すモーターです。
筋肉の動き(ミオシン)、ATPの合成(Fo, F1)など人間の体で非常に重要な動きを生み出します。これらの動きはタンパク質が、化学反応などで構造変化が生じることで生まれます。
タンパク質モーターの研究は進んでいる一方で、現在のところタンパク質モーターを活用した社会実装は進んでいません。
アクチュエーターの原理ごとに対応できる出力が変わる理由
アクチュエーターが原理ごとに対応できる出力が異なるのには、物理的な理由があります。
機械は寸法を大きくすると、振動、熱、応力が厳しくなり、物理的な成立性が低くなります。これらの知見は機械工学として体系化されています。
たとえば機械の長さ寸法をLとする、面積はL^2、体積はL^3となります。
【振動面】弾性ばね定数はL(はりのばあい)倍になります。一方、質量はL^3倍になります。このため、固有振動数は低くなります。つまり同じ動きでも追随出来なかったり、振動が激しくなるため振動的に厳しくなります。
【熱】寸法を上げると体積に比例して出力が上がることが多いです。このため体積に比例して熱が出たり損失が発生します。一方で、放熱量は面積に比例するので、発熱に対して放熱が追いつかなくなります。
【応力】物が動くと質量に比例する体積力も働きます。一方で、材料が許容できる力は面積に比例します。つまり、モノが大きくなると同じ動きでも、応力が大きくなり材料強度が耐えられなくなります。
一方、寸法が小さいと、出力当たりの加工が多く経済性が低くなったり、物理法則で優位となる現象が変わったりします。
まとめ
このページでは、アクチュエーターについて紹介しました。
アクチュエーターは、動きを生み出す機械です。空気圧シリンダーや油圧モーターなどが該当します。
エンジンや一定速度の誘導モーターも動きを生み出します。しかしながら、これらは多くの場合、狭義のアクチュエーターという言葉からイメージされることはないと思います。
アクチュエーターに含まれる機械の範囲は、場面によって流動的です。しかしながら、動きを生み出す機械という点で、アクチュエーター、エンジン、一定速度の誘導モーターは共通で、超広義のアクチュエーターに含まれます。
このため、このページでは出力などの観点から、これらの機械の特徴を紹介しました。
21世紀のアクチュエーターの進化の方向性
21世紀の技術の進展は、半導体をはじめとした微細加工技術により大きく支えられています。
アクチュエーターに関しても、「①パワー半導体によるインバータ電力変換技術の進歩」や、「②ロジック半導体による制御技術の進歩」、「③汎用PCの普及による機械システム設計・保守ソフトウェアのUI(ユーザーインターフェース)の進歩」、「④微細加工によるMEMSアクチュエーターの適用拡大」、「⑤遺伝子改変によるタンパク質アクチュエーターの改造」などマイクロ・ナノ技術の発展に依拠することが挙げられます。
アクチュエーターに関連する21世紀の技術の進展
- パワー半導体によるインバータ電力変換技術の進歩
- ロジック半導体による制御技術の進歩
- 汎用PCの普及による機械システム設計・保守ソフトウェアのUI(ユーザーインターフェース)の進歩
- 微細加工によるMEMSアクチュエーターの適用拡大
- 遺伝子改変によるタンパク質アクチュエーターの改造
アクチュエーターに関連するこれらの事項は、今後も継続して進歩が進むものと考えられます。
アクチュエーターに関連して考えられる今後の進歩
- 蓄電池の進歩に合わせた大型モビリティへの電動化の適用拡大
- 複数の機械(アクチュエーター)の協調制御の拡大
- 機械システム設計・保守ソフトウェアのUI改善
- MEMSアクチュエーター/センサーによるIoTの低廉化
- タンパク質アクチュエーターの設計手法確立および社会的な価値の見極め