電気自動車用モーターの種類一覧 実用的分類・特徴【EV】

モータ・アクチュエータ


電気自動車用モーターの分類法をまとめています。

分類法は、独自の視点でまとめています。電気自動車(EV, Electric vehicle)やハイブリッド自動車(HV)*1などにおいて、「モーターには、どんな種類があるのだろう?」と疑問に思う方にとって、より役に立つ内容となることを意識しています。

以下の動画の方は、テスラ モデル3に採用されている埋込磁石型同期モーターを紹介しています。埋込磁石型同期モーター(IPMSM)は、多くのメーカーの多くの車種で採用されている代表的なモーターです。このページの情報によって、このようなモーターの分類を俯瞰して見ることができると思います。

実用的分類法

まず「モーター駆動システム」の観点で、世の中にあるモーターを分類します。**モーター駆動システムとは、「モーター」と「モーターの電源を制御するインバーター」を含めたシステムです*2**。

現在のモーター利用では、モーターの電源を制御することが多くあります。しかしながら、従来のモーターの分類は、「電源を制御しないこと」*3が前提のものです。

インバーターなどを含めて「モーター駆動システム」として分類を考えることで、モーターを考える際の見通しがかなり良くなります。また、モーター駆動システムごとに、モーターやインバーターの仕様を見ることで、電気自動車で注目すべき緒言がより明確になります。

実際、電気自動車では、下の図のようにバッテリーやインバーターと組み合わせてモーターが用いられます。

電気自動車のモータ周りの機器

電気自動車に使えるモータ駆動システム

代表的なモーター駆動システムを以下の図に示します。

モータ駆動システムの分類

電気自動車に用いられるのは、サーボモーターと呼ばれるタイプのモーターです。サーボモーターは、モーターの回転速度などを高度に制御できるという特徴があります

このように電気自動車に必要な駆動システムでは、直流モータや同期モータ、誘導モータと言った多くのモータを利用することが可能です。電気自動車に使用できるシステムで制御できる項目を、以下の表にまとめています。

電気自動車のモータ駆動システムで可能な事項

電気自動車では、多くの種類のモーターを利用できます。しかしながら「直流モータをバッテリーにそのまま繋いで運転したり」、「交流モータをインバータなしに運転したり」しても、電気自動車用のモーター駆動システムとしては利用できません。なぜなら、これらではモーターを高度に制御することができないからです。

電気自動車モータ駆動システムの分類

結論として、電気自動車で用いることができるモーターは以下の表のようになります。この表には、大まかな特徴についても合わせて併記しています。

多くの電気自動車に用いられているのは、埋込磁石型同期モータ(IPMSM)です。これは小型であり、高い回転数までトルクを発生できるからです。

モータごとの特長

かつて、テスラは誘導モーター(IM)を採用していました。また、日産アリアは巻線界磁型同期モーターを採用しています。いずれのモーターも、永久磁石式同期モーターと比較すると、永久磁石が不要というメリットがあります*4

このように各方式にはメリット・デメリットがあります。参考として実際にどのような車種に各モーターが採用されているかを以下の表に示します。埋込磁石型同期モーター(IPMSM)を採用している車種が多いことが分かります。

各モータを採用する自動車の例

これから先では、モーターの細かい分類について紹介します。

モーター印加電源及び回転子構造の観点(古典的分類)

古典的なモーターの分類は、「①モーターに接続する電源が直流であるか交流であるか」と「②交流である場合は、モーターの回転子の構造がどうなっているか」の2点から行われます。

現代の電気自動車では、直流モーターが採用されることはありません。このため①を省略し、交流モーターの大雑把な分類のみを以下に示します。

交流モーターの場合は、モーターの回転子の構造によって以下の4つに分類されます。これらの構造で全ての交流モーターを分類できます。なお、固定子側は、基本的に共通で、回転する磁界を生み出す電磁石です。

永久磁石式同期電動機(PMSM,Permanent Magnet Synchronous Motor)
巻線界磁*5同期電動機(EESM, Electrically Excited Synchronous Motor)
同期リラクタンスモーター(SynRM, Synchronous Reluctance Motor)
誘導モーター(IM, Induction Motor)

以下に、モーター毎の特徴を再掲します。永久磁石式同期モーターは、埋込磁石型と表面磁石型に分けて紹介してあります。

【再掲】モータごとの特長

しかしながら、EVのトルク特性には電源装置(インバーター)の仕様も大きく影響します。このため、EVの諸元を見る際は、モーター単体ではなく、インバーターを含めた駆動システムとしてみる方が良いと思われます。例えば、同一のモーターであっても、インバーターの扱える電圧が上がるとモーターの発揮できるトルクが大きくなります。

以下では、さらに細かな分類について紹介します。注目したい点に合わせて、下記の分類を組み合わせメリット・デメリットの理解を進めていくのがメジャーです。

資源の偏在性の観点

モーターには多くの素材が使われます。

代表的なモーター材料としては、永久磁石、電磁鋼板、銅があります。

特に永久磁石は、世界的に資源の偏在性や希少性に関連します。また永久磁石の耐熱性向上のために用いられるジスプロシウムも、希少です
日本経済新聞
日本経済新聞の電子版。日経や日経BPの提供する経済、企業、国際、政治、マーケット、情報・通信、社会など各分野のニュース。ビジネス、マネー、IT、スポーツ、住宅、キャリアなどの専門情報も満載。
" href="#f-e36bd829" name="fn-e36bd829">*6。このため永久磁石の耐熱温度は重要な指標と考えられますが、通常の諸元では公開されません。

永久に磁石の有無でモータを分類すると以下の図のようになります。

同期リラクタンスモーターは、永久磁石同期モーターと比較して、トルク的な性能的には劣ります。しかしながら省資源的な観点では、有利なことが分かります*7。また、同様のことが誘導モーターにも当てはまります。
永久磁石の使用の観点からのモータの分類

また他の素材として、どのようなモータでも、「電気を通すための銅」や「磁束を通すための鉄(無方向性電磁鋼板)」が素材として多く用いられます。電磁鋼板が何かというイメージについては、以下のページで紹介しています。

motor-actuator.com

メンテナンス性の観点(ブラシの有無)

メンテナンス性の観点からは、主にブラシの有無で分類されます。

ブラシとは、回転する物体に押し当てて、回転する物体に外部から電気を流すための導体です。回転する物体に押し当てるため、回転するたびに消耗します。

このため、ブラシの利用がない方が、メンテナンス性が高いと言えます。

モータの回転子に電流を流す場合は、ブラシが必要です。このため回転子を電磁石にする必要がある巻線界磁型同期電動機(EESM)などでは、ブラシが必要になります*8

ブラシの有無の観点からのモータの分類

トルク密度の観点(冷却方式)

トルク密度(出力密度)の観点からは、冷却方式が重要となります。トルク密度とは、モータ体積あたりのトルクのことです。モータのトルク密度が高いと、モータを小型化できます。

モータの冷却方式としては、空冷、水冷、油冷などがあります。油冷>水冷>空冷の順番に冷却性能は高くなり、結果的にトルク密度を高め小型化することができます。

モータのトルクは、電流と磁束の積になります。このためトルク密度を上げるためには、電流密度や磁束密度を上げれば良いということになります。

電流密度を大きくすると、体積あたりのジュール熱(銅損)が大きくなります。磁束密度を大きくすると体積あたりの鉄損による発熱が大きくなります*9。このため、モータのトルク密度を上げると、体積あたりの発熱(=損失)も大きくなります。この発熱を冷却するために、適切な冷却を行う必要があります。

なお、モータに流す電流を大きくするためには、インバーターの性能も重要になります。

例えば、以下のデンソーテクニカルレビューでは、ラジエータとモータ間は冷却水で熱を輸送し、モータ内は油で熱を輸送する方法が紹介されています。

https://www.denso.com/jp/ja/-/media/global/business/innovation/review/13/13-doc-04-ja.pdf

また、発熱を抑えるという観点からは損失を低減するという観点も重要となります。研究開発段階ではありますが、東芝の超電導モータは、抵抗を低くしジュール熱(銅損)による損失を低減することで、モーターの小型化を行っています。

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銅線の巻き方に関する観点

銅線の巻き方には、何種類かの分類があります。ここの事項は、イメージがしづらいわりには、あまり重要ではないので飛ばして大丈夫です。なお、ここでの話は交流モータに関する事項です*10

永久磁石式モータの場合は、回転子に銅線はないので、固定子側に巻く銅線について考えていることになります。

一方、日産アリアに用いられているような、巻線界磁型の場合は、回転子にも銅線があります。このため、固定子、回転子共に考えることになります。

巻線法については、全体的に以下の動画が分かりやすいと思います。

www.youtube.com

集中巻、分布巻

電磁石のための銅線を、どのように空間に分けて巻くかの区分です。

集中巻は、一相の一つの極分(一相一極分)の銅線を一つのスロットに通します。分布巻きは、一相の一つの極分(一相一極分)の銅線を複数のスロットに通します。

集中巻は磁束が大きくなるメリットがあります。また工作がしやすいというメリットも有します。一方、分布巻きは、磁束のモータ内の空間的な分布が正弦波に近づくメリットがあります。

例えば、3相4極の場合、集中巻きの場合のスロット数を考えます。極数は、電磁石が空間的にいくつあるかを表します。4極の場合、2つの電磁石があります。相数は、電流の時間的な位相の数です。空間、時間的な組み合わせを考えると、3×4=12種類の巻線が必要です。1つのスロットに1種類ずつの巻線を収めると考えると、12スロットが必要となります。

上記の条件で、集中巻きを分布巻きとして、3つのスロットに1種類ずつの巻線を収めると考えると、12×3=36スロットが必要となります。

なお、1つのスロットに複数種類の巻線を収めることもできます。

相とは、位相のずれた電流をいくつ流すかの区分です。例えば、1相だと、モータには外部から一つの位相のみの電流を流します。また、3相だと、モータには外部から、3つの異なる位相の電流を流します。3つだと2π/3ずつ位相が異なることになります。電磁石(モータの磁束)は、電流によって生じます。このため、電流の相の数だけ、異なる位相の電磁石があることになります。

極とは、電磁石となる銅線の半分のことです。2つの極で一つの電磁石になります。

以下のIHI技報では、燃料電池自動車用の圧縮機について紹介されています。p.45に圧縮機駆動用のモータは、「重ね巻き」から「同心巻き」へと変更したとあります。「重ね巻き」は「分布巻き」を実現する巻線です。また、「同心巻き」も、「分布巻き」を実現する巻線です。「同心巻き」は、集中巻きと同じように、工作が行いやすいです。これは、工作中の巻線同士の物理的な干渉が少ないことによります。

https://www.ihi.co.jp/ihi/technology/review_library/review/2022/_cms_conf01/__icsFiles/afieldfile/2022/06/22/11.pdf

以下に「同心巻き」と「分布巻き」の様子が見れる動画を紹介します。「自動機械で、銅線を入れている工程」が、「同心巻き」です。「手動で、銅線を入れている工程」が、「分布巻き」と思われます。

youtu.be

全節巻、短節巻

この区分は、銅線をどのくらいの幅で巻くかの違いです。詳細は省略します。

全節巻は磁束が大きくなるメリットがあります。一方、短節巻きは、磁束のモータ内の空間的な分布が正弦波に近づくメリットがあります。集中巻と分布巻の違いに似ています。

丸エナメル線、平角線

モーターの巻線には、銅線が用いられます。銅線の断面形状によって、大きく2種類に分類されます。

銅線の断面が丸いものを丸エナメル線と呼びます。また、断面が長方形であるものを平角線と呼びます。

断面が長方形である平角線の方が、小さな体積で銅線を巻くことができるようになるというメリットがあります。つまり平角線の方が、小型化ができます。

例えば、銅線の違いについては、以下の日立金属の資料でも確認することができます。
https://www.hitachi-metals.co.jp/products/auto/el/pdf/magnet_wire.pdf

まとめ

このページでは、電気自動車用に用いられるモーターの分類についてまとめました。

まず、そもそも自動車用のモーターは、高度な制御ができる駆動システムである必要があることを紹介しました。具体例としては、交流モーターをインバーターを用いて制御する方法が挙げられます。

次に、従来からの分類と同様に、モーター毎の特徴をまとめました。電気自動車用のモーターの分類が気になる際に、参照いただけたら幸いです。

参考文献

○Motor fan illustrated Vol.184 よくわかるモーター

Motor Fan illustrated Vol.184

実際のEV用のモーターに関する事項が紹介されている。一般向けの本であり、画像が多くイメージがつきやすいためわかりやすい。

○現代電機器理論 金東海著 電気学会

モーターを制御するものという観点から電気機器学をまとめている。ベクトル制御を前提としたモーター理論の導入がある点など、他の電気機器学の教科書と比較して分かりやすい。

○パワースイッチング工学 金東海著 電気学会

パワースイッチング工学―パワーエレクトロニクスの中核理論 (電気学会大学講座)

上記のモーターの教科書の姉妹書的な存在である。インバーターにかんする理論的な紹介がまとまっている。高度なモーター利用には、モーターとインバーターの組み合わせが不可欠であるため、その理解に役立つ。

また、以下のページなども参照いただけたら幸いです。

motor-actuator.com

motor-actuator.com

motor-actuator.com

*1:他には、家電、FAなど

*2:「モーター駆動システム」という言葉は、私が勝手に使っている言葉です。しかしながら、このような考え方は近年主流になっている考え方です。例えば、モーターに関する学問である電気機器学の教科書「現代電気機器理論」と、似たような立場だと思います。

現代電気機器理論 (電気学会大学講座)

*3:または、「電源を制御すること」

*4:一方、永久磁石式と比較して、回転子側にも電流が流れジュール熱(銅損)が生じるため、回転子をより冷却する構造が必要と推測されます。磁石は熱に弱いことを考えると、永久磁石式の回転子の方が耐熱温度が低く、案外冷却構造は似たようなものなのかもしれません。

*5:電磁石を用いる方式。永久磁石式と異なり、回転子に巻線を作り電流を流す電磁石を用いることで、磁力(起磁力)を生じさせます。

*6:日経新聞の以下のような記事もあります。

www.nikkei.com

*7:同期リラクタンスモーターは電車において試験例があります。https://www.tokyometro.jp/news/images_h/metroNews210624_32.pdf

*8:原理的には、ブラシ無しとすることもできますが、通常はブラシありと思います。

*9:磁束密度は、際限なく上げることができません。これは鉄には飽和があるためです。

*10:内容確認しきれていない点があるので、詳しくは書籍を参照ください。

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