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【脱CADオペレーター】機械エンジニアになるための3冊+α【機械設計実務入門】

 機械系エンジニアが仕事を進める上で役に立つ図書を3冊を紹介します。機械工学を大学時代に学んで機械設計を行っている方や、他の分野を学んで就職して機械系の仕事を始めた方の参考となればと思います。

 機械工学の内容と、機械系エンジニアが実際に行う業務との間には溝があります。まず、どのような方であっても、機械系の仕事を進めていく上で手元に持っておくとよい3冊の本を紹介します。その後、その3冊を紹介する理由を説明します。また、その他に機械系の仕事進める上で、役に立つ事項を紹介していきます。

機械系エンジニアが手元において置きたい3冊

 まず機械系エンジニアが業務ですすめる上で、手元にあると便利な図書を3冊紹介します。仕事を進める上では、分からない部分が多々でてきます。その際に、最初に参照できる3冊を紹介します。この3冊に記載がないことは、実務的に各企業や各事業独自のことと考え、周囲のエンジニアに助けを求めるのが妥当と思います。

初心者のための機械製図

書名:初心者のための機械製図
著:植松 育三、 高谷 芳明、 松村恵理子
出版社:森北出版

   機械製図の教科書です。機械の製作のためには、製作部門との意志の疎通として図面が必要です。しかし機械の図面は、読みづらいです。図面を見ていて分からないことは多々あります。その時には、この本を眺めます。基本的な事項は載っているので解決します。逆に記載されていないことは、周囲の方に遠慮なく聞くという指標になると思います。
 

JISにもとづく 機械設計製図便覧

書名:JISにもとづく 機械設計製図便覧
編:大西 清
出版社:オーム社

 この本ではJIS規格に則って機械要素が記載されています。機械設計では、規格で標準化された部品を利用することが多くあります。機械要素にはJIS規格があり、無料で公開されています。しかしながら、利用するJIS規格は数が多いと、資料としてまとめて手元に管理するのは難しくなります。そのようなときに、この本を手元におき、よく使う項目に付箋を貼ると資料の管理が容易になります。

機械実用便覧

書名:機械実用便覧
著:日本機械学会
出版社:日本機械学会

 機械工学を構成する各事項がまとめて記載されています。機械工学に関する基本的な事項はこの便覧で確認できます。記載のない事項は、基本的に周囲の方に話を聞いたりして、仕事を進めるという判断ができます。ただし機械工学便覧の類は、機械工学の基礎知識がないと、内容の理解がしにくいという難点もあります。

機械工学必携

書名:機械工学必携
編:馬場秋次郎、吉田嘉太郎
出版社:三省堂

この本も、前述の機械実用便覧と同様な内容です。このため、本屋で立ち読みをしてみて、どちらか好みを確認すると良いと思います。私は、機械実用便覧と機械工学必携の両方を買いましたが、機械実用便覧の方をメインで利用しています。

関数電卓

 関数電卓の一例です。本では無いですが、関数電卓は手元においておくと機械系エンジニア感が増します。今の時代はエクセルがあれば、おおよその計算ができます。四則演算であっても、関数電卓を用いた方がよいと思います。関数電卓を用いた方が、深層心理で周囲のエンジニアの評価が上がるのではないかと思います。

3冊をオススメする理由

 ここまで、機械系エンジニアが手元においておくと便利な本を3冊紹介しました。この3冊をオススメする理由は、これらの本が手元にあると周囲の力を借りながら機械設計業務がおおよそ回るようになるためです。

 機械設計含め多くの場合、職場での業務は単純な手順に落とされています。業務における作業の再現性を高めるためには、作業を単純な手順に分解することが重要だからです。逆に言うと、難しい工学的な知識を抑えなくても、表面的な仕事は回ることが多いです。しかし、作業の進め方に不明点が出てくることがあります。このようなときに、前述の3冊が役に立ちます。

 前述の3冊があれば、機械設計の基本的な事項を網羅して確認することができます。もし内容が理解できなくても、確認できるということが重要です。図書で内容を確認したが不明であるということを伝えることで、周囲の方からスムーズに作業の進め方を教えてもらうことができます。

 次に、作業手順に落とし込むまでを含めて、機械設計の流れのイメージを紹介します。その後、業務を進める上で役に立つ図書などを紹介します。

機械設計の流れ

 ここからは、機械設計の流れを紹介します。機械設計の仕事は、大きく研究開発と詳細設計の二つに分けることができます。それぞれの、業務については、以下の図にイメージをまとめました。企業や事業によって、内容には差があると思います。

機械設計の流れ

 研究開発では、自社内で技術的に確立していない事項を確認します。確認できた事項については、資料にまとめ詳細設計業務に反映します。研究開発と詳細設計を行う部門が分かれている場合は、設計基準書などの形にまとめ、部門間の意思の疎通を行います。

 詳細設計部門では、製造部門向けの図面作成や、客向けの技術資料の作成を行います。これらの業務を行う際、技術的な確認に時間がかかる項目が出てきます。研究開発部門は、設計基準書によって、そのような点を明確にする役割があります。結果的に詳細設計の段階では、図面作成などの業務が簡単な作業に分解されていることが多いです。また、このように単純な手順に落としこまれている作業が、機械エンジニアの業務として割り当てられることも多いです。
 

 単純な手順に落としこまれている作業を、行う上でかなり役に立つ図書として最初の3冊の図書を紹介しました。以下では、これら3冊を手元に揃えた上で、機械系エンジニアとして業務を行う際に役に立つ図書やサイトを紹介します。

役に立つサイト

 仕事中であっても無料で、ササっと確認できるサイトをいくつか紹介します。業務上の不明点について、周囲の人に確認したり、ネット上の情報で確認したりしていくと知識が少しずつついていきます。ただし、ネット上の情報は不正確な点もあるので注意が必要です。

toishi.info

www.toishi.info

 砥石に関するサイトですが、材料の物性値が多くまとめられていて便利です。本来は、文献などで物性値を確認したほうがよいと思いますが、ササっと確認したい場合に便利です。

やさしい実践 機械設計講座

kousyou.synology.me

 機械設計サイトで、機械設計の基礎が紹介されています。入門的な事項が、しっかりとおさえてあるなと感じます。

ササっと製品知識をつけるための本

 業務で関わる製品に関してササっと確認できる本のシリーズを紹介します。目の前の業務を回すことに慣れてくると、製品の原理や仕様などに気になる点が出てきます。そのようなときに、以下の本のシリーズを読むと、おおよそ仕様の読み方などの雰囲気が掴めるようになります。

とことんやさしいシリーズ

 とことんやさしいシリーズは、製品の原理などについてやさしく紹介されています。まず、知りたいと思った際に参考にすると便利です。

オーム社 まんがでわかるシリーズ

 こちらもとことんやさしいシリーズと同様です。製品の原理などについてマンガでやさしく紹介されています。何かの製品や技術に新しくかかわる際は、このような本を公立の図書館で借りて確認するとよいと思います。

機械工学の基礎知識を身に着ける本

 ここまで、機械設計業務を回すために必要な3冊や、機器の原理や仕様を概観するときに便利なシリーズを紹介しました。これらの内容を理解できていれば、手順に落とし込まれているおおよその業務は担当できると思います。また、多くの機械設計の業務に求められていることはクリアできます。

 しかしながら、そもそもの設計手順書の作成業務や、研究開発業務には機械工学の基礎知識が必要です。なぜならば、これらの業務は単純な手順に落とし込まれておらず、機械系エンジニア同士のコミュニケーションが必要となるからです。機械系エンジニアは、機械工学の知識をベースに意思の疎通を行います。このため、機械系エンジニアとして、設計手順書の作成業務や研究開発業務を行うためには、機械工学の基礎知識が必要となります。

 機械工学のオススメの教科書は以下の記事でまとめています。ここでも、改めてオススメのシリーズを紹介します。

cat2tech.hatenablog.jp

YouTubeチャンネル ヨビノリ

www.youtube.com

 大学レベルの数学や物理、高校数学、高校物理などを解説するYouTubeチャンネルです。正式名称は、予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」です。機械工学の理解には、大学の物理や、高校数学、高校物理の知識が必要です。このため、機械工学を学んでいて分からない概念があると、このチャンネルに戻って、確認するとよいと思います。

JSME教科書シリーズ

 日本機械学会の教科書シリーズです。おおよその機械系エンジニアは、この教科書シリーズの内容以上の知識はありません。逆にいうと、他の機械系エンジニアとの意思疎通*1という考えでは、この教科書シリーズが必要十分となります。業務と関連する科目について内容を確認すると良いと思います。ただし、内容が少し難しいので、前述した2つのシリーズのようにかなり簡単な入門書で、科目の雰囲気を掴んでから内容に手をつけるのが良いと思います。

技術士一次試験(機械分野)を受ける

 技術士一次試験(機械分野)に合格し、合格した事実を周囲に共有することで、周囲から技術的に一定の評価を得ることができます。これは、機械工学の基礎知識を有しており、機械工学的な意思疎通に問題がないと判断されてるためです。

 JABEEに認定されている学科を卒業すると、技術士の一次試験は免除されます。しかしながらそのような方の場合でも技術士一次試験を受験しない場合は、特段評価されません*2。技術士に関しては、以下の記事を参照願います。

cat2tech.hatenablog.jp

+αの本

 ここまでで紹介した本で、機械工学の基礎知識は身につきます。それ以降は、望む方向に沿って、業務内や市販の図書で知識を身に着ける過程だと思います。以下では、個人的に役に立った本を紹介します。

強度検討のミスをなくす CAEのための材料力学

書名:強度検討のミスをなくす CAEのための材料力学
編:遠田 治正
出版社:日刊工業新聞社

 構造強度検討のための、設計基準書作成法を簡潔に紹介した本です。前述のように、設計基準書の作成は多くの場合、研究開発のしごとです。物理的な過程を再現性がとれる簡易な形で設計基準書という形に落とし込むのは困難な作業です。この本では、構造設計の基準書を作成するために必要な基本的な情報が記載されています。CAEのためのと書いていますが、記載事項はCAEを利用しない場合にも共通するものであり、かなりの良書です。構造強度検討を行う機械系エンジニアは、この図書を元に作業フローを再点検することもできます。

 この本では、構造強度検討の方式として、「CAEまたは材力による応力計算」⇒「材料物性値および安全率を考慮した判定基準の決定」⇒「算出した応力<判定値であればOK」という流れが紹介されています。また、ミーゼス応力は降伏判定に用いられることや、主応力は疲労強度の判定基準に用いられることなどが紹介されています。また、疲労限度を判定されている際に用いられる修正グッドマン線図などについても紹介されています。このように、構造強度検討上、必要な知識が最低限網羅されており、構造強度検討を行う方にとっては必見の良書です。

続・実際の設計 機械設計に必要な知識とモデル

 機械系エンジニアが使いそうな知識が浅く広くまとめられています。機械工学に含まれていない事項も記載されているのが特徴です。機械系エンジニアとして、最低限知っておいたほうがいい点を知る上での物差しになるような本です。よくわからないことを、ちょっと確認するのに便利です。
 「続」でない緑色の表紙の実際の設計という本も同じシリーズであります。この緑色の表紙の本は、組織などに関する話も多く、実務にすくに役立てるというのは難しいと思います。

機械系大学院への四力問題精選

書名:機械系大学院への四力問題精選
編:藤川 重雄
出版社:培風館

 旧帝大レベルの機械系大学院レベルの院試を集めた問題集です。機械系エンジニアが利用する機会はあまりないと思います。実力に少し不安のある方が、旧帝大レベルの機械工学を納めた人のレベルを知るのに適していると思います。ただ、残念なことに手に入りにくい状況のようです。

Motor fan illustratedシリーズ

 自動車産業に関する技術的な情報が一般人向けにまとめられています。自動車産業は、日本で最も高度な機械システム産業です。このような産業の一端を感じることができます。ただし、内容のわりに少し高いですし、技術的にちょっと不正確な気がする点もあります。

おわりに

 今回は、機械系エンジニアとして手元においておくと便利な本を3冊紹介しました。また、機械系エンジニアとして、さらに力強く業務を推進していくうえで有用な本やシリーズについてまとめました。これらの情報が、機械系エンジニアとしての業務力向上のお役に立てば幸いです。

cat2tech.hatenablog.jp

*1:過去の技術資料や文献の解釈も、意思疎通に含みます。任意の工学において、基礎知識なしには記載事項の理解は行えません。

*2:JABEEに認定された学科を卒業された方でも、技術士一次試験は受けたほうが良いです。例えば、東京大学はJABEEに認定されていません。しかしながらこのことが、東京大学の卒業生個人の機械工学的な能力が、JABEEに認定された卒業正個人の能力より低いことは意味しません。このようなことがあるため、JABEEに認定された学科を卒業しているからといって、認定されていない大学と比較して、機械工学上の能力が補償されているとは一般的に見られることは少ないです。