この記事では、鉄道業界を主に鉄道車両メーカーに関する点から紹介していこうと考えています。
以前の記事では、川崎重工や日立製作所などの鉄道車両メーカーの日本の産業における立ち位置を簡単に紹介しました。
今回の記事では、世界における日本の鉄道車両メーカーの立ち位置などを紹介します。
規制にかんして
前回の記事で紹介したように、世の中には規制が存在します。そして鉄道関連の製品にも、安全性の向上などのために規制が存在します。
例え同じような製品であっても、国ごとに規制が存在することがあります。そして、国ごとによって規制は少しずつ異なってくるのです。
これはある国の規制は基本的に、その国とその国のメーカーが協力して作り上げるためにおこります。いわば、メーカーにとっても規制というのは国との阿吽の呼吸*1によって生み出さすもので、参入障壁となるため味方になるものなのです。
メーカーの海外進出のときの規制
しかしメーカーが海外進出を行うとする際に、規制に関して大きな問題が生じます。
それは、自国の規制と進出先の国の規制が対応しないという問題です*2。国内の規制であれば阿吽の呼吸で乗り越えられますが、海外の規制はそうはいきません。
そのため国外の規格に関しては、一から調査をおこなう必要があるのです。このため既成の製品をそのまま輸出することはできません。下の図を見ていただくと、国ごとに規制が作成されるイメージがわきやすいのではないかと思います。
身近なものに例えると、肉じゃがが家庭によって味が異なることに近いと思います。子供は家で肉じゃがの名前と味を覚えます。そして子供の要望や保護者の力量などの要因が複雑にかかわって、各家庭ごとの「肉じゃがの味」ができていきます。
同じように、自国の規制と進出先の国の規制が対応しない場合は、製品が輸出先の規制では認可されない可能性があります。
企業の海外進出のときの壁
企業の海外進出の際には、他にも障壁が存在します。
このような障壁は、国同士の利害が絡むために取り去ることが難しいのです。とくによく言及されるのが海外進出の際の「ヒト・モノ・カネ・情報」に関する障壁です。
メーカーの海外進出の際には、規制以外にもこれらのすべてが絡んできます。そして川崎重工の鉄道事業の赤字もこのような点が絡んでいると考えられます。これら障壁のうち、「ヒト」と「モノ」に関する障壁に関して以下で簡単に紹介します。
まず「ヒト」に関してです。国によって制度は異なりますが、誰もがどこの国でも働けるわけではありません。日本でも移民にかんする議論が起こっているからも分かると思います。後で述べますが製品を現地で生産することが必要となる場面があります。このような際に、製品の納入先の現地で適格な「ヒト」を新たに確保する必要が出てきます。
多くの国では、高度な外国人の人材以外の就労を認めず、自国民の雇用を守るために障壁が設置される場合が多いです。例えば中国にも「ヒト」にかんする障壁があり、資格や経歴によってランク付けされ外国人が中国で就労するためには越えなければいけない条件があります。詳しくは以下のサイトでまとめられているので、そちらを参照してください。
中国で始まったランク付け-あなたはA級?それともB級C級? | 中国IT情報局
次に「モノ」に関してです。現地の政府によって、製品を単純に輸出するだけでなく現地で調達するように求められることがあります。これは、現地の産業育成や雇用維持などの目的でおこなわれます。
日本とは異なる環境となるため、日本の企業が納期の遅れなどのトラブルを抱える原因となります。川崎重工のニューヨーク市営地下鉄向けの事業も、設計や試作は日本でおこなっていますが、生産はアメリカで行われています。
現地調達にかかわる大きなトラブルでは、日立製作所の火力発電事業(現在は事業を三菱重工が承継)による南アフリカでのトラブルがあげられます。このトラブルによる納期の延期によって、7,000億円の請求を日立製作所は受けています。詳細に関しては以下の産経のネットニュースにも触れられています。
【経済インサイド】南ア火発建設で三菱重工vs日立製作所 “統合”も負担押しつけ合う泥仕合に(1/3ページ) - 産経ニュース
鉄道車両事業の難しさ、川崎重工が赤字の理由
2018年度の上期、川崎重工の鉄道車両事業は赤字に陥ったことが公表されました。川崎重工が赤字に陥った理由を説明していこうと思います。
まず、北米とくにニューヨーク地下鉄向けの車両を受注して納入していることが大きな原因であると考えらます。
今回や前回の記事で紹介したように、国と国の間には「規格」や「モノ」の障壁が存在します。これらの障壁によって、「設計者がアメリカの規制に合わせるコスト」と「日本でなくアメリカで生産することによるコスト」がかかります。
現地での労働者の確保などにかんする見通しが甘いなどの理由によって、川崎重工の鉄道車両事業は赤字に陥ってしまったのだと考えられます。
企業が海外進出する理由
このように海外進出にはリスクが伴い、あえてこのような危険を冒す必要はないように感じます。しかしながら、海外進出を挑戦するのには理由があります。
ほとんど全ての産業に言えますが日本社会の需要は減っていくと予測されています。このため川崎重工も、海外進出をおこない売上を維持しようとしていると考えられます。
日本の鉄道車両メーカーの中でシェアを奪い合うという考えもありますが、鉄道運行会社は関係の深い鉄道車両メーカーに発注をおこないがちでありシェアを奪いづらいという現状があります。
世界の鉄道車両事業は競争が過熱しています。
特に現在、高速鉄道網を国内で整備している中国は、先進国の企業にとって技術的にも脅威となる存在になろうとしています。
このような環境のため、フランスのアルストムとドイツのシーメンスは鉄道車両事業を2019年に統合することとなっています。
鉄道車両事業をおこなう代表的な企業の、おおよその売上(2018年時点)は次の表に記載した通りとなります。日立製作所は、鉄道車両以外の海外鉄道事業も拡大し、収益の拡大を図っています。それに比較すると、川崎重工の、海外進出の取り組みは上手くいっていないように見えます。
企業名 | 国 | 売上 | 特徴 |
---|---|---|---|
中国中車 | 中国 | 3兆円 | 売上のほとんどが国内向け |
シーメンス | ドイツ | 7,000億円 | 2019年にアルストムと統合 |
アルストム | フランス | 7,000億円 | 2019年にシーメンスと統合 |
ボンバルディア | カナダ | 7,000億円 | |
GE | アメリカ | 4,000億円 | 非中核事業 |
日立製作所 | 日本 | 6,000億円 | 売上1兆円を目標に会社を買収 |
川崎重工業 | 日本 | 1,000億円 | 2018年に新幹線の台車で亀裂 |
また、シーメンスとアルストムに関する日経電子版の無料記事などもご参照ください。
シーメンス、アルストムと鉄道事業統合 欧州連合で中国に対抗 :日本経済新聞
おわりに
この記事では簡単にではありますが鉄道車両事業のキホンに関して紹介しました。この記事が鉄道車両メーカーに関する理解の助けとなれば幸いです。
業界などの情報収集の方法などにかんしては、以下の記事も参考になると思います。