前回の記事で「鉄」や「半導体」が「産業のコメ」と呼ばれる理由について紹介しました.また,それぞれが利用される製品や場面についても紹介し,まとめると下の表のようになるのでした.
鉄 | 半導体 | |
---|---|---|
特徴 | 加工しやすい 安い 強度がある | 電気信号の制御ができる 小型化できる |
使われている身近なモノ | 自動車 電車 ビル | スマホ パソコン 自動車 |
生産者 | 鉄鋼メーカー | 半導体メーカー |
企業の例 | 新日鉄住金 アルセロールミタル | インテル サムスン |
これまで「鉄」と「半導体」を同じように紹介してきましたが,この二つの製品が登場した時代や産業のコメと呼ばれるに至った背景は大きく異なります.今回の記事では,この「鉄」と「半導体」の登場した時代背景と産業のコメと呼ばれるに至った経緯について紹介します.
「鉄」が登場した時代
鉄器が登場したのは,紀元前15世紀ごろ今から2500年ほど前のヒッタイト(小アジア,現在のトルコ周辺)であると言われています*1.このように鉄は数千年前から利用されてきた素材です.
鉄は自然の中では酸化鉄(鉄鉱石)の状態で存在し,この鉄鉱石から鉄を高い効率をもって生産することが技術的に高いハードルでした.
鉄は利用が開始されてから,様々な技術的革新を経て今もなお,素材や金属の王と言われることもある*2ほどです.
「鉄」が活躍した時代
「鉄」が現在ほど注目されるようになったのは,イギリスで18世紀終わりに*3に始まった産業革命が大きく関係します.この産業革命では,ワットの蒸気機関の改良に代表されるように様々な分野で工業化が促進されました.その際に鉄道や船などの機械の素材として多く利用されたのが「鉄」なのです.前回述べたように「鉄」は「加工しやすく」「強度がある」という優れた特性を有していたためです.このため,社会の基盤となる鉄道や船が多く必要とされた時代に,もっとも鉄鋼業は活躍しました.日本でおおよそ1900年~1950年あたりの時代です.日本の官営の製鉄所も1901年に操業を開始しています.
「半導体」が登場した時代
半導体(厳密には半導体トランジスター)が登場したのは1950年前後です.これは鉄よりも大分最近であることがわかります.
半導体には小型化が可能なことと電気的な良い性質を持っていることに特徴があります.身近な生活でも感じられるように,電気は大変便利なものです.このため電気的な信号を様々な面で制御でき小型である半導体は,20世紀に活躍の場を大きく広げました.これによって電気が関わる私たちの身近な物には必ずと言ってもいいほど半導体が含まれています.
「半導体」が活躍する時代
現代は正に「半導体」が活躍する時代と言って過言ではありません.電気的な信号を利用するモノに半導体を用いていないものはないのですから.たしかに,半導体の技術的な進歩は少し鈍くなっています.しかし,まだまだ技術が飽和しておらず,この先も半導体技術の進歩が進むと考えられます.この進歩によって何が変わるでしょうか?
まず,スマホやパソコンがより軽く,より高性能になるでしょう.また,身近な家電に多くの高精度なセンサーが用いられるようになり,結果として家電の性能はより向上するでしょう.また,多くの計算を必要とするAIやセンサー等をもちいてモノをつなげるIoTなどの分野もより成長する土壌が整うのではないかと考えられます.
おわりに
今回は「鉄」と「半導体」が登場した時代と活躍した時代について紹介しました.
今後は「鉄鋼業界」「半導体産業」のそれぞれについて説明するしようと思います.
最後に表で鉄鋼産業と半導体産業の外観についてまとめさせていただきます.
表. 鉄鋼産業と半導体産業の概要
鉄 | 半導体 | |
---|---|---|
特徴 | 加工しやすい 安い 強度がある | 電気信号の制御ができる 小型化できる |
使われている身近なモノ | 自動車 電車 ビル | スマホ パソコン 自動車 |
生産者 | 鉄鋼メーカー | 半導体メーカー |
生産する企業の例 | 新日鉄住金 アルセロールミタル | インテル サムスン |
勢いのある生産地 | 中国,インド | 韓国,台湾,アメリカ,欧州 |
技術的な課題 | 加工しやすさと強度の両立 | さらなる微細化 |
製造装置を供給するメーカー | プライメタルズテクノロジーズ*4 | 東京エレクトロン,アドバンテスト,日立ハイテクノロジーズ*5,ASML(蘭),ラムリサーチ(米),Applied materials(米) |
*1:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%89%84%E5%99%A8%E6%99%82%E4%BB%A3
*2:鐵(鉄の旧字体)は金の王なる哉(かな)と言われます.これは鐵という感じを分解すると「金」の「王」である「哉(かな)」,つまり鐵は「金属の王であるなあ.」と読めることに由来します.
*3:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%A3%E6%A5%AD%E9%9D%A9%E5%91%BD
*4:日立製作所,三菱重工,IHI,siemensそれぞれの製鉄機械事業をもとに成立
*5:日立の子会社