【決定版】迷わない工学部の学科選び!学科ごとの特徴~年収や勤務地も~

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このページでは、工学部の学科について紹介します。学科の違いを心から納得し、特徴を把握できる内容となっています。

多くの大学では、大学に入る前、受験のタイミングで、工学部や理工学部の学科を決める必要があります。しかしながら、同じようなことを学ぶ学科を選ぼうとしても、大学が異なれば、工学部の学科名は大きく異なります。そうしているうちに、学科の特徴を掴めず混乱してしまいます。

そこで、このページでは、工学部の学科の「分類イメージ」を紹介します。学科ごとの分類イメージを把握し、各大学の学科を当てはめることで、ほとんどの大学の学科を統一的に把握することができます。また、この方法は、理工学部などにおける、工学的な学科の把握にも役に立ちます。

さっそく、工学部の各学科の分類イメージを以下に示します。このページでは、この分類イメージを、工学という言葉のの意味からたどることで紹介していきます。

工学部内の学科・分野の分類イメージ

工学の意味

工学を含め、科学は再現性を高める営みです。

人間は豊かな生活を望みます。現代の豊かな生活には、スマホや車、家、街といったものが不可欠です。しかしながら、スマホや車、家、街を、素人が簡単につくることはできません。闇雲につくろうとしても、材料やエネルギーといった資源を無駄にするだけです。

そこで、人間の生活に便利なものを効率的に製作するには、再現性を高める営みが必要となります。この営みこそが、工学です。結果的に、工学部の知見は製作したモノをとおして、社会の構築に貢献する学問です。

例えば、工学の世の中における位置づけについて、京都大学工学部の理念には以下のような記載があります。工学は科学技術と人類の生活をつなぐ学問といえます。

学問の本質は真理の探求である。

その中にあって、工学は人類の生活に直接・間接に関与する学術分野を担うものであり、分野の性格上、地球社会の永続的な発展と文化の創造に対して大きな責任を負っている。

工学部の各学科の立ち位置

さっそくですが、工学部の各学科の社会における立ち位置を以下の図にまとめます。どこの大学の学科構成も遠からず当てはまるはずです。

人間は社会で生まれ、老い、死んでいきます。その社会の中で、役に立つけど複雑なものをつくる知見の集まりが工学です。そこで各学科の立ち位置を「①キカイをつくる」「②素材をつくる」「③町や建物をつくる」「④生物学的な知見を利用する」の順にまとめていきます。

■機械系/電気系/情報系:キカイをつくる。雰囲気もやってることも、イメージしやすい工学部。
■化学系/金属材料系(冶金):素材をつくる。素材科学は法則が少なく手法は総当たり的。
■土木系/建築系:町や建物をつくる。芸術性や政治性が強い。
■生物工学系(バイオ系):生物学的な知見を利用する。アメリカでは熱い分野。しかし現状の日本では構造上、医師や製薬メーカーに利益をとられる。儲からない。

工学部内の学科・分野の分類イメージ

最初に各学科の就職先として代表的企業の年収や所在地を紹介します。多くのタイプで大手の企業は、太平洋ベルトに所在することが多いです。

キカイをつくるタイプの学科の就職先は、非常に間口が広く、多くの国公立大学で40歳年収900万円の企業に就職するチャンスがあります。

素材をつくるタイプの学科の就職先は、設備産業であることもあり、入社の間口が狭いです。大手には旧帝大や早慶などの難関大学を出ていないと就職することが難しいです。

バイオ系の学科の就職先は、非常に間口が狭いです。製薬大手に就職するためのは、東京大学などの最難関大学出身であることが求められることが多いです。

企業名年収業種所在地
キカイをつくるトヨタ自動車1,200万円自動車愛知県
キカイをつくる三菱重工950万円総合機械兵庫、愛知など
町や建物をつくる鹿島建設1,200万円総合建設全国
町や建物をつくる大林組1,000万円総合建設全国
素材をつくる日本製鉄1,200万円製鉄大分、千葉など
素材をつくるAGC1,100万円化学神奈川、愛知など
バイオ系中外製薬1,200万円製薬神奈川など
バイオ系テルモ800万円医療機器神奈川など
年収は40歳時推定。

就職四季報や業界地図は、年収や業界に関する具体的な情報が記載されているので、眺めてみるとイメージがつかめます。特に就職四季報は、年収や採用大学など有用な情報が記載されており、kindleで電子書籍を簡単に変えるので、社会人の方にもおススメです。

①キカイをつくる学科

まず「キカイをつくる学科」を紹介します。

キカイをつくる学科は、機械系や電気系、情報系です。これら、何をつくるのかイメージしやすい工学部です。一般の方がイメージする、広い意味でのキカイをつくる際に必要な知識が学べます。ここでは、キカイとは、一般の方がイメージする機械(車や、家電、スマホなど)をあらわすものとします。

工学部の機械系学科という際の機械は、通常の一般の方がイメージするキカイよりも少し狭い範囲を指します。そもそも、1世紀前(1900年時点)の機械に関する事項は、機械系学科によって網羅されていました。しかしながら、最近の機械は高度なため、一つの学科だけではカバーしきれません。そこで、機械をつくるための知識は、電気系や情報系の学科に分かれています。

機械として、身近な電車を例として考えてみると、「電車の車両は機械系の範疇」、「電車で電気をを変換するインバータは電気系の範疇」、「車両間の通信は情報系の範疇」です。

電車の場合は、機械系学科の知識は主役的な存在です。しかし例えば、スマートフォンのような機械の場合は、機械系学科の知識は脇役的な存在です。例えば、スマートフォンでは、機械系の範疇は放熱設計などの脇役的なもののみであり、ソフトウエアなどの情報系学科の知識が重要となります。

日本最大の企業であるトヨタは、自動車というキカイをつくる企業である。

マチをつくる

次に「マチをつくる学科」を紹介します。

「マチをつくる学科」は、土木系と建築系です。これらは、都市や社会の基盤となるインフラや建物をつくる際に必要な知識を学べる学科です。一般の方がイメージする「マチづくり」に関連する様々な分野を学び、実際に機能的で快適な都市空間をつくるための方法や技術を身につけることができます。ここで言う「マチ」とは、道路、橋、ビル、住宅など、私たちが日常的に使う都市空間や建築物全般を指します。

土木や建築は古代からある分野で、英語ではCivil Engineering(直訳すると市民工学)と呼ばれます。土木系で学ぶ「土木」は、一般的にイメージする道路や橋などのインフラ整備を指しますが、その範囲はかなり広く、構造物だけでなく環境や都市計画に関する知識も含まれます。一方、建築系は、住宅や商業施設、公共施設などの建物を設計・施工するための知識を学びます。これらの学科は、単独では全ての「マチづくり」をカバーしきれないため、土木系学科と建築系学科はそれぞれ異なる分野に特化しつつも、密接に連携しています。

例えば、都市における道路や橋などのインフラは土木系の範疇ですが、これらのインフラに囲まれて建てられるビルや住宅などは建築系の範疇に入ります。また、都市全体の環境や住民の暮らしに配慮した設計、芸術性は、土木系と建築系の学科共に求められます。

土木系学科では、道路や橋などの大型インフラの設計や施工が中心であり、建築系学科は、建物の設計や構造に関する深い知識が求められます。それぞれの学科が担う役割は異なりますが、どちらも「マチづくり」において非常に重要な役割を果たします。

また「マチづくり」は多くの人の生活と関わります。このため、土木系や建築系は政治性が強くなります。

大林組などによってスカイツリーが建設される様子。

素材をつくる

次に「素材をつくる学科」を紹介します。

「素材をつくる学科」は、金属工学系(冶金系)と化学系です。これらは、私たちの生活に欠かせない素材を創り出すための知識を学べる学科です。一般の方がイメージする「素材」—例えば、金属やプラスチック、化学薬品など—を作るための技術を深く学ぶことができます。

金属工学系は、鉄鋼やアルミニウムなどの金属を扱い、その性質や加工方法、さらにその利用方法に関する知識を深めます。かつては、冶金学科と呼ばれました。金属の強度や耐久性を高める方法、または新しい金属素材を開発するための技術を学ぶことができます。これに対して、化学系は、化学反応を利用してさまざまな素材を作り出すことに重点を置いています。化学系では、プラスチックやガラス、セラミックス、さらには化学薬品など、多岐にわたる素材がどのように製造され、利用されるかについて学びます。

例えば、スマホのケースは金属工学系の知識で作られる金属素材から成り立ち、内部の回路基板やバッテリーは化学系学科の知識を活かした素材が使用されています。これらの学科がそれぞれ異なる役割を果たし、全体として素材が作られ、製品が完成します。

金属工学系と化学系は、どちらも「素材をつくる学科」として、私たちの生活に不可欠な素材を生み出す重要な役割を担っています。金属や化学素材が進化し、より高性能で環境に配慮した新しい素材が登場することで、私たちの暮らしはより便利で快適になります。

これらの学科が特徴的なのは、一般の市民はキカイを使い、マチで暮らすときに、初めて工業的な材料と接する点です。このように、工業的な材料は、一度、キカイやマチをつくる企業を経て一般の人の手に渡るため、素材系の企業は、企業に販売をおこなう、B to Bでの形をしています。

日本製鉄による鉄鋼生産の様子。

生物学的な知見を利用する

最後に生物工学系学科を紹介します。

「生物学的な知見を利用する学科」は、生物工学系(バイオ系)です。この学科では、生物学や生命科学の基礎的な知識を活かして、バイオテクノロジーや医療、環境、食品などの分野に貢献する技術を学びます。生物学的なプロセスや生体の機能を工学的に応用し、さまざまな製品や技術の開発を目指します。

生物工学系では、例えば、遺伝子工学やバイオプロセス技術、細胞工学などの分野が学べます。これにより、医薬品やバイオエネルギー、新しい治療法や環境保護技術を開発するための基盤を作り出します。特にアメリカでは、この分野が非常に熱い分野であり、バイオテクノロジー業界は急速に成長しています。新薬の開発や遺伝子治療、再生医療など、生物学的な知見を活かした革新的な技術が次々と登場し、世界中で注目されています。例えば、イルミナ社の次世代シーケンサーによる遺伝子解析技術の向上は、社会に多大な影響を与えています。

しかし、現状の日本では、この分野の商業化が進んでいないという構造的な問題があります。医師や製薬メーカーが主導する形で利益が集中しているため、生物工学の技術者が直接的に利益を得る機会は少ないのが現実です。特に、日本の製薬業界においては、研究開発における利益の大部分が医療機関や企業に取られてしまうため、生物工学系の技術者が儲かる場面は限られています。

それでも、生物工学系で学んだ知識は、医療、環境保護、食品産業など、多くの分野で活躍の場があります。将来的には、バイオテクノロジーが進化し、より多くの人々に恩恵をもたらすことが期待されており、グローバルな視点では非常に重要な分野といえます。

世界の遺伝子解析を変えた、イルミナ社の次世代シーケンサーによって、人間のも明らかになった。

各学科の入試区分レベル

各学科のイメージを、東京大学、京都大学、東京科学大学の入試区分レベルと対応させてみます。具体的に分類すると以下の表のような対応となります。

分類イメージ東京大学京都大学東京科学大学
キカイをつくる
・機械系
・電気系
・情報系
理科一類
理科二類
物理工学科
電気電子工学科
情報学科
工学院
情報理工学院
素材をつくる
・化学系
・金属材料系(冶金)
理科一類
理科二類
工業化学科
物理工学科
物質理工学院
町や建物をつくる
・土木系
・建築系
理科一類
理科二類
地球工学科
建築学科
環境・社会理工学院
生物学的な知見を利用する
・生物工学系(バイオ系)
理科一類
理科二類
-生命理工学院
工学部内の学科・分野の分類イメージ

社会の仕事は学科ごとに切り分けられている

人生の時間は有限であり、一人の人間が学べる量には、限りがあります。このため、工学部は学べる内容によって、複数の学科に分かれています。逆にいうと、世の中の仕事に対応して、工学部の学科は存在します。

また、企業内では工学部の学科と対応するように仕事内容が整理されています。

企業内での業務は再現性高く回せることが重要です。多くの場合、業務内容は、学部教育程度のレベルで、機械系学科や電気系学科、情報系学科などに分割され整理されています。これによって、理想的には機械系として割り振られた業務は、機械系学科を卒業した従業員であれば、機械工学の知識を生かして理解し、実行できるようになっています。

学校の教員が、理科の教員や数学の教員など、免許によって分かれていることと似ています。ただ、工学部やエンジニアには免許がない点は異なります。

他の例としては、工学部の学科とは、野球やサッカー、バスケのポジションに近いと思います。工学部のある学科を出ていることは、何か一つできることを表す証となります。

カテゴリ具体例補足
工学部の学科機械系学科、電気系学科、情報系学科学べる内容に基づいて学科が分かれ、それぞれ専門分野を深く学びます。企業内でも、それぞれの学科に対応する業務が割り振られ、専門知識が活用されます。
教員の科目理科の教員、数学の教員学校では、教員が専門の科目に分かれて教育を行う。工学部と異なり、教員には免許が必要で、学科ごとに専門性が求められます。
野球のポジション各ポジション(例: ピッチャー、キャッチャー、外野手など)野球におけるポジションも、それぞれ異なる役割を持ち、専門性を生かしてプレーします。工学部の学科と同様に、それぞれのポジションが特定の知識・技術を表す証となります。
工学部の学科、教員の科目、野球のポジションの関係

学科間の共通点

ここまで、工学部内の学科間の違いを述べました。

しかし、機械系、電気系、情報系にも多くの共通点があります。まず、機械系と電気系の共通点として、物理学があります。また機械系、電気系、情報系ともに基礎的な数学という共通点があります。さらに、半導体技術の進歩が著しく、プログラミングなどの情報技術の初歩は、どの学科でも共通になりつつあります。

このように、重なる領域があるため、その知識を通して工学的な意思の疎通が可能となります。どんな楽器をやっていても、楽譜は読めるというのに近いかもしれません。機械系でも、電気系でも、情報系でも、基礎的な物理や数学は理解できます。ただし、より具体的な工学の中身は分野外からはイメージしづらいです。

機械系、電気系、情報系の関係のイメージの一部抜粋

機械系学科に該当する学科の具体例

いくつかの大学について機械系学科に該当する学科を具体的に紹介していきます。

量子○○学科という学科は、原子力工学科由来の学科です。また、東京大学のシステム創成学科は、原子力工学科及び船舶工学科由来の学科です。

航空工学科は日本に多くあります。しかしながら、日本の航空機産業は比較的小さいです。このため、航空工学科を卒業しても航空機産業に関われるとは限りません。

物理工学科は、東京大学、京都大学、名古屋大学にあります。括り方に違いがあるので注意が必要です。統計物理学は、就職時に直接的な使い道があまりないと思います*13

機械系に進みたい場合は、京都大学の物理工学科のみが該当します*14

大学名学部・学科コース(分野)
東京大学工学部(理科一類)機械工学科、機械情報工学科、航空宇宙工学科、精密工学科、システム創成学科
京都大学工学部 物理工学科機械システム学コース、宇宙基礎工学コース、原子核工学コース、エネルギー応用工学コース
東京科学大学工学院機械系、システム制御系
大阪大学工学部 応用理工学科機械工学コース、生産科学コース
同上↑工学部 環境・エネルギー工学科エネルギー量子工学コース
同上↑基礎工学部機械科学コース、知能システム学コース
名古屋大学工学部 機械・航空工学科機械システム工学コース、電子機械工学コース、航空宇宙工学コース
東北大学工学部 機械知能・航空工学科-
九州大学工学部(Ⅲ群)機械工学科、航空宇宙工学科、量子物理工学科
同上↑工学部(Ⅳ群)船舶海洋工学科
北海道大学工学部 機械知能工学科-
神戸大学工学部 機械工学科情報知能工学科(選択科目)
慶応大学理工学部 機械工学科システムデザイン工学科、物理情報工学科(選択科目)
早稲田大学基幹理工学部 機械科学・航空宇宙学科-
同上↑創造理工学部 総合機械工学科-
機械系学科に該当する学科の具体的

本ページで具体的に名前を挙げた企業は、旧帝大、東工大、神戸大、早慶などで学べば、十分に就職可能なものがほとんどです。

また関係する製品を製造する企業であれば、ほとんどの大学で就職可能です。

まとめ

工学部の学科選びは、大学ごとに異なる名前や特徴があり、理解が難しいことがあります。しかし、工学の分野を「機械・電気・情報」「素材」「建築・土木」「生物工学」などに分けて整理することで、各学科の位置づけが明確になります。

学科ごとに異なる専門分野を学び、企業ではその分野に対応した業務を担当します。自分の興味や将来のキャリアに合った学科を選ぶためには、これらの学科の特徴をよく理解することが重要です。

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