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電磁鋼板(でんじこうはん)とは何?わかりやすく

 電磁鋼板(でんじこうはん)について、分かりやすく解説します。

電磁鋼板とは?

 電磁鋼板とは、磁束を扱うのに特化した鉄板です。具体的には「①磁束を通しやすく」、「②磁束を通した際の損失が少ない」という特徴があります。

 電磁鋼板は、磁束を利用するモーターや変圧器で用いられます。

 

そもそも磁束って何?電流と磁束、銅と鉄。

 そもそも磁束とは何かというと、電気でいう電流のようなものです。

 電池が電流を生じるように、磁石は磁束を発生させます。

 電流を流す際には、銅線を用います。それは銅が電流を流しやすいからです。同じように、磁束を流す際には、鉄の板を用います。これは、鉄が磁束を流しやすいからです。

 身近な現象でも、鉄が磁束を通しやすいことを体感できるものがあります。例えば、磁石に鉄がくっつくということです。鉄が磁石に引き寄せられる理由は、磁石が磁束を生じ、鉄が磁束を通しやすいために、磁石と鉄の間の隙間がなくなるような力が働くからです。

 特に磁束を流すことに特化した鉄の板を、「電磁鋼板」 といいます。

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磁束を利用する製品

 磁束を利用する製品には、モーターや変圧器があります。

 モーターや変圧器では、磁束は磁石や電磁石によって発生させられます。

 モーターは、電気の力で運動する装置です。フレミングの左手の法則にあるように、電流と磁束があると力が発生します。モーターが役目を果たすためには、磁束が不可欠です。

 変圧器は、電圧を変換する装置です。詳細は省略しますが、ファラデーの法則を利用します。一度、電流から磁束に変換し、再度その磁束を電流に変換します。これによって、異なる電圧に変換することができます。

 電磁鋼板を用いることで、これらの機器の効率を上げたり、小型化(出力密度の向上)を行ったりすることができます。

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分かりやすいまとめ

 電磁鋼板は、磁束を扱いやすい鉄板です。

 電磁鋼板は、磁束を利用するモーターや変圧器の材料です。
 そもそも磁束とは、もう一つの電流のようなものです。電流と同じように目には見えないですが、存在します。  電流を扱う際は、銅を用います。同じように、磁束を扱う際は、鉄を用います。

 電磁鋼板は、特に磁束を扱うこと特化した鉄板です。
 電磁鋼板は、「①磁束を通しやすく」、「②磁束を通した際の損失が少ない」という特徴があります。

 モーターや変圧器は、磁束を利用することができます。
 このため、高性能なモーターや変圧器には電磁鋼板が不可欠です。

 ここまでで、電磁鋼板の概要をまとめました。以下ではより興味のある方向けに、詳しく電磁鋼板についてまとめます。

日本製鉄がトヨタや三井物産を訴えた理由

 日本製鉄が三井物産やトヨタ、宝山鉄鋼を訴えています。

 日本製鉄が、今後規模を拡大しようとしている高付加価値は主に2つです。1つ目が電磁鋼板、2つ目がハイテン(高張力鋼鋼板)です。

 日本製鉄は、電磁鋼板及びハイテン共に、世界でトップの技術を有するとされています。

 電磁鋼板は、モーターに利用されます。今後、EVが普及することで急速に需要が拡大されることが期待されています。この需要を競合である中国の鉄鋼メーカーに奪われないように、今回、日本製鉄は三井物産やトヨタ、宝山鉄鋼を訴えたようです。

(日本製鉄が訴訟を行ったプレスリリース)https://www.nipponsteel.com/common/secure/news/20211014_100.pdf

 なお、ハイテンの売上の大半は自動車産業向けです。また、日本製鉄自体も売上の多くを自動車産業向けに依存しています。このことが、今回、トヨタを訴えたことに多くの人が驚いたことに繋がっています。もしかすると、トヨタ向けハイテンは、そもそもの採算性がかなり低いのかもしれません。

無方向性電磁鋼板と方向性電磁鋼板の違いは?

 無方向性電磁鋼板と方向性電磁鋼板の違いは、特性に方向性があるかないかです。

 無方向性電磁鋼板には、磁気的な特性に方向性がありません。

 このため、稼働中に磁束の向きがいろいろな方向を向くモーターなどで、無方向性電磁鋼板は用いられます。

 一方、方向性電磁鋼板の磁気的な特性には、向きによって違いがあります。

 このため、稼働中に磁束の向きが変化しない変圧器などで、方向性電磁鋼板は用いられます。

電磁鋼板の仕様のポイント

 電磁鋼板の特徴は透磁率が高く(磁束を通しやすく)、鉄損が少ないことです。

 そこで、具体的に日本製鉄のカタログを見ながら、 確認ポイントを見てみます。透磁率、鉄損及び価格を変数とすると、パレート最適な商品構成になっているはずです。

 透磁率は、磁束密度(磁化力)と周波数が主なパラメータで、周波数ごとのB-Hカーブで確認できます。一つのパラメータで透磁率を評価する場合は、B50で評価されます。B50は磁化力が5000A/mのときの磁束密度(T)を表します。B50の値が大きいほうが良い電磁鋼板です。

 鉄損の主なパラメータは、透磁率と同じく磁束密度(起磁力)と周波数です。一つのパラメータで鉄損を評価する場合は、W15/50などで評価します。W15/50は、最大磁束密度1.5T(=15kGauss)で周波数50Hzの磁束が通る場合の、単位体積当たりの鉄損の値です。W15/50が小さいほうが良い電磁鋼板です。

 究極的には、透磁率B50と鉄損W15/50の両方を伸ばすということは不可能なようです。

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 他にも、板厚が薄くなるほど良い電磁鋼板となります。これは、電磁鋼板が薄くなるほど、渦電流が減るため鉄損が減るためです。Motor Fan illustrated Vol.184によると、板厚0.2 mm台の電磁鋼板も電気自動車用に実用されているようです。
Motor Fan illustrated Vol.184

まとめ

 このページでは、電磁鋼板について紹介しました。

 電磁鋼板は、モータや変圧器で利用されます。

 簡単なイメージとしては、電池が電流を生じるように、磁石が磁束を生じます。  

 そもそも磁束とは、もう一つの電流のようなものです。電流と同じように目には見えないですが、存在します。  電流を扱う際は、銅を用います。同じように、磁束を扱う際は、鉄を用います。

 電磁鋼板は、特に磁束を扱うこと特化した鉄板です。
 電磁鋼板は、「①磁束を通しやすく」、「②磁束を通した際の損失が少ない」という特徴があります。

 モーターや変圧器は、磁束を利用することができます。
 このため、高性能なモーターや変圧器には電磁鋼板が不可欠です。

 電気自動車が普及することで、電磁鋼板の重要性が高まっています。

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